インタビュー

「藤丸再建」新ステージへ。米田社長インタビュー「人とお金を呼び込むのが“そら”の使命」

2023年1月末の閉店から1年。北海道唯一の地元資本の百貨店だった「藤丸」再建が新たなステージに入りました。株式会社そら(米田健史社長)が、保有していた全株式を藤丸株式会社(村松一樹社長)に売却し、資金調達に特化したスポンサー契約を締結。果たして今後の展開は?株式会社そらの米田健史社長に心の内を聞きました。

株式会社そらが藤丸株を売却。CSOを退任

十勝・帯広のシンボル「藤丸」が閉店して1年が経ちました。そんな中、再建を目的に立ち上がった株式会社そら(米田健史社長)が、保有している藤丸株式会社(=新藤丸、村松一樹社長)の株式の売却と、米田社長の新藤丸の取締役CSO(最高戦略責任者)退任を発表。今後はスポンサー業務に徹するとして、新藤丸と株式会社そらのスポンサー契約を締結しました。

新藤丸の株式売却と取締役退任について米田社長は「藤丸再建が新たなステージに入ります。これまでの道筋で株式会社そらが設立当初から掲げてきた『十勝に人とお金を呼び込み、十勝の地域内総生産(GTP)に貢献する』ことへの共感者が増えました。今後は、理念に沿って、資金戦略面で藤丸再建を後押ししていきます」と話します。

これまでの道筋については、以下の記事でも書いた通りです。株式会社そらは2022年4月に閉店発表前の「藤丸」の藤本長章社長から支援の打診を受けましたが、その時の藤丸は待ったなしの状態でした。

12の課題のうち残るは④と⑫のみ

資金ショートにより、多くの関係者や関係企業、十勝経済にも影響を及ぼし、もし倒産すればその後は土地や建物が廃墟になる恐れすらあった中で米田社長は支援を決断。その際に掲げた課題が「再建への12の課題」です。

全国的に街のシンボルだった多くの百貨店が閉店し、その後は廃墟のままとなっている光景を見てきました。そうならないための課題が12のやるべきことでした(米田社長)

【12のやるべきこと】

① 支援スポンサー候補となり、待ったなしの藤丸を潰さず閉店セールを実施すること
② 閉店セール期間中の資金ショートを防ぐこと
③ 競売になって誰に取得されるか分からない状態を防ぐこと
④ 既存の建物を有効活用すること
⑤ 地権者との交渉とかかる費用を負担すること
⑥ 金融機関との交渉とかかる費用を負担すること
⑦ 屋号「藤丸」を残すこと
⑧ 保証金をテナントに返金すること
⑨ 従業員に退職金を払うこと
⑩ 従業員の雇用問題を解決すること
⑪ 私的整理の枠組みで解決すること
⑫ 藤丸の再建計画を立てること

あの決断から2年弱。藤丸は即時倒産ではなく閉店セール後に多くの人たちに惜しまれながら閉店しました。その後は、私的整理による地権者との合意形成や、新藤丸のメンバー(今回、新たに取締役COO/最高執行責任者に就任した山川知恵さん)による、お歳暮の復活など、再建に向けて着実に確実に進んでいます。

地域課題に挑む姿が10億円の寄付に繋がる

「決断後、村松社長をはじめ、地権者の皆様や金融機関など多くの支援・応援をいただけました。最大の課題だった私的整理も地権者様のご理解もあり着地でき、これから私たちが取り組むべき課題は、④と⑫となりました。④については、“思い入れのある藤丸の建物を残して欲しい”という声を受けてのものですが、老朽化した施設と設備を活かすことは中々難しい現状です。すべては⑫の計画がどのような計画になるかによって決まりますが、代表は村松さん、運営の責任者は山川さん、私は資金面の戦略を考える立場で携わっていくこととなります。この1年、様々な取り組みを展開する中で、オープンハウスグループ(東京・荒井正昭社長)からそらが関わる十勝での取り組みに対する10億円の寄付も表明いただきました。すべては、設立から一貫して変わらない十勝の地域創生に取り組む姿勢に共感をいただけたからです」(米田社長)

世間では「藤丸再建」の印象が強い株式会社そらですが、「ふるさと納税型クラウドファンディング」を2年連続で目標達成したほか、日本トップクラスの戸建てハウスメーカーを中核とする総合不動産デベロッパー「オープンハウスグループ」と合同で新会社「株式会社かぜ」を設立。経済評論家であり株式会社フジマキ・ジャパン代表取締役である藤巻健史氏が株式会社かぜの顧問に就任するなど、共感の輪が広がります。

私的整理(藤丸再建への課題⑪)の際、不動産の信託受益権化及び信託受益権売買という信託会社が間に入るスキームを提案できたことも金融出身者である我々だからこそできたことであり、自信にも繋がりました。このスキームにより、再建コストの圧縮や再建スピードの加速を図ることができます。株式会社かぜが立ち上がったことで、今後は幅広い金融ソリューションを提供していきます。十勝の資産基盤強化や金融リテラシー向上による地域共創を実現させていきたいです」(米田社長)

藤丸再建への支援を引き受け、課題解決に尽力する姿が、そらが設立当初から掲げてきた「十勝に人とお金を呼び込み、十勝の地域内総生産(GTP)に貢献する」という理念を体現させたわけです。

支援の輪を広め十勝の地域内総生産(GTP)向上へ

「株式会社そらの得意な領域で力を発揮することで、当初掲げた藤丸再建への課題解決に向けた道筋を作ることができ、十勝の地域共創に興味を持っていただける企業や人との接点ができました。こうした共感者を増やすことで、世の中に眠っている資金にアプローチし、利活用いただくことこそ、そらの設立時からの理念です」(米田社長)

振り返れば、先ずは倒産を回避せざるを得ない“待ったなし”の状態からスピード感を持って進めるためには、自らも藤丸株式会社に入ることは必要不可欠だったに違いない。そうして挑んだ課題も解決の道筋が見え、その間に多くの人とお金を呼び込んだことで、果たすべき役割が変わっていったのでしょう。

株式会社そらの理念「十勝の地域内総生産(GTP)に貢献する」はここからが本番。藤丸再建にとどまらず、今後も十勝のGTPをどう上げていくのか期待しかない。

最後に、読んでいる皆さんに伝えたいことは一言。今後も新生「藤丸株式会社」を応援していきましょう!

取材・文/北川宏(SUMAHIRO.COM

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