インタビュー

帯広の藤丸百貨店の事業再生に関わる「そら」の米田社長とは

2022年、北海道十勝最大のニュースとなった道内資本最後の百貨店「藤丸」の閉店決定。十勝民が願う再生に向けての支援に関わるのが、十勝に拠点を構え、観光や食などの事業を展開する株式会社“そら”です。地方創生を掲げる同社の米田健史代表に迫ります。

藤丸百貨店の支援に関わる「そら」ってどんな会社?

2022年7月7日、「藤丸百貨店、閉店」の文字が地元メディアに掲載するや否や、全国ニュースでも報道され、地元に大きな衝撃を与えました。それもそのはず、藤丸百貨店は北海道資本の唯一の百貨店で、創業1900年、120年以上の歴史を誇る老舗デパート。一報を聞いた多くの十勝民が「再建してほしい」「閉店しないでほしい」と惜しみました。

そして、衝撃と共に微かな希望を与えたのが「事業再生」の四文字。この再生に関わるのが、本日の主役となる地方創生ベンチャー「そら」です。

米田社長の最新のインタビューはこちら

米田健史社長の話をする前に、「そら」について説明しましょう。

株式会社そらは、2020年4月に元金融マンの3人で起ち上げた地方創生ベンチャー企業です。

日本全国で、地方創生・地域創生が叫ばれる中、“十勝に人とお金を呼び込む”ことをコンセプトに、十勝で様々な事業を企画し、自ら実行・運営していく会社として生まれました。

そらは、事業に関わる経営判断をする上で、“その事業を通じて十勝の地域内総生産(国で表すとGDPの概念)にどれだけ貢献できるのか”を最も重視。

そらが、取り組む様々な事業創出や事業拡大の施策を通して、雇用を創出し、移住者や観光客の増加を促していくことこそが地域内総生産を伸ばす最短ルートだと捉えています。

代表の米田健史社長が「事業が生まれれば、その事業に“ひと”が集まり、消費を通してお金を落とします。落とされたお金は新たな事業に使われ、事業が生まれれば……。と好循環を創り出し、十勝の各種納税額も必然的に増加するんです」と語る通り、「そら」は、人とお金を十勝へ繋げるきっかけを創る会社というわけです。

十勝に移住した理由は「十勝の魅力に惹かれて住みたいと思ったから」

2020年4月の立ち上げから2年半。わずかな間で生まれた事業が、グランピングリゾート、ビジネスホテル、冷燻工房、起業家支援、温泉事業、そして百貨店の再生というわけです。

“そら”については、以下の記事を読めばわかると思いますが、立ち上げから2年半が経ち、事業が急拡大する中で米田社長は何を想い、これからをどう描いているのでしょう。

そんな米田社長に、改めて「なぜ十勝を選んだのか」とぶつけてみました。

「十勝・帯広への赴任は、野村證券に勤めていた際に自ら希望して実現しました。北海道大学の在学中から、幾度となく十勝を訪れ、十勝の“食”や“”景色“に惹かれ、そして、基盤産業である農業を中心に豊かに暮らす人々の姿を見ながら『十勝で住みたい。住むにはどうしたら良いだろう』と考えていたことが実り、帯広に住むことができました。その後、11年という野村證券での経験を経て『大好きな十勝で、十勝に貢献できる仕事をするにはどうしたら良いか』と悩んで出した答えが十勝での起業でした」(米田)

起業から2年半。心境の変化について聞くと「最初は十勝に住みたい。美味しい十勝を味わいたいという十勝からサービスを享受する感じでした。ところが、起業後は事業を進めるなかで、いつのまにか十勝を主体的に創り上げるという受ける側から与える側へと変わっていきました。2年半とは同じ十勝でも捉え方がまったく異なるようになりましたね」と話します。

“そら”の強みは「想い」に寄せられて、つながる縁です

現在、株式会社そらは複数の事業体を持ち、グループ合わせて約80名の社員を雇用。そのうちの2割は十勝管外からの移住者で、家族を入れると40名が十勝に移住してきたことになり、起業時のビジョン“十勝に人とお金を呼び込む”を実践しています。

日本のトレンドにもなっている「地方移住」は、少子高齢化と過疎に悩む地方自治体にとって最大のミッションですが、どうやって地方発のほぼ名も知らないベンチャー企業が実践できているのでしょう。

雇用することで移住に繋げている米田代表は、「そらでは、これまで求人広告や人材紹介会社にお願いをしたことがなかったんです。誰もができるSNSに情報を載せて発信してきただけです。発信内容はひとつだけ。起業時の想いを綴り、一緒にそらを作っていきませんか。と問いかけてきただけです。採用に至った現在のメンバーは、そらの想いを共有できると感じてくれた方々が集まっているんです」と淡々と話します。

そして、起業してすぐに出会ったのが、北海道十勝・中札内村でグランピングリゾート(旧:中札内農村休暇村)「フェーリエンドルフ」を運営するキャピタル・ゼンリン株式会社でした。

同社が運営してきた中札内村にある「フェーリエンドルフ」は約32ヘクタールの敷地に、宿泊棟50棟、グランピングテント(10張)などを配置するリゾート施設です。「会社を立ち上げたのが4月ですが、7月にはキャピタル・ゼンリンの西麻衣子社長(現在、そらの取締役)に出会い、我々が描く、雇用とお金を生み出す経営に共感いただき、9月に経営統合しました」とまさにベンチャーならではのスピード感。

急いだ理由についても「例年、冬の時期は閑散期で、しかもコロナウィルスが猛威をふるうことが想定されたため、冬の営業を停めて全棟のリニューアルを一気に施せば、営業しながらリニューアルをするよりもコストを抑えることができ、万全の体制で春にリニューアルオープンが出来ると判断したからです」と当時を振り返ります。

リニューアルを果たしたフェーリエンドルフは、新型コロナの逆風の中で、「No密で濃密な時間を〜コロナ禍でも家族や仲間と過ごせる観光が十勝にはある〜」を打ち出し、人と屋内で交わることのないキャンプブームにも乗り、確実に利用客を増やしています。


また、東京赤坂の名店「燻」輿水シェフ監修のもと、「魔法」と称される冷燻の技術と北海道・十勝の最高の食材をかけあわせた商品を開発。フェーリエンドルフ施設内の「REIKUN ~十勝冷燻工房~」で生産し、全国へ発送中です。

さらに、フェーリエンドルフ内には、新たな平屋建て約150平米のサウナ付き超大型ラグジュアリーコテージ「プリンセススイート」や、室内で温泉・サウナに入れる約200平米の「プレジデンシャルスイート」を建設し、幅広い人たちがNo密の時間を過ごせるリゾートとして生まれ変わりました。

そして、株式会社そらの想いは、中札内村の森田匡彦村長をも動かすのです。

「中札内村主体のふるさと納税型のクラウドファンディングを実施し、資金を募り完成したのが、十勝エアポートスパ そらです」(米田社長)

「十勝エアポートスパ そら」は、とかち帯広空港から車で15分という立地で、観光客の行き帰りに利用できる温泉スパ施設。

米田社長が「地元とかちの方々にアンケートをとり、ほしい施設として選ばれたのが空港に近い場所でのサウナのある温泉施設でした」と語る通り、十勝エアポートスパ そらは、2022年7月23日のオープン以来、地元中札内村や近隣市町村からの利用客のほか、北海道内外から多くの観光客を呼び寄せているそうです。

「先日、HTB北海道テレビの企画で水曜どうでしょうの藤村Dこと、藤村忠寿さんが訪れ、『ととのうどころじゃない』という名言をいただけたことで、サウナの良さをしっかり証明できたと従業員一同、喜んでいます」(同)

中札内村から帯広へ。想いへの共感はさらなる事業継承へ

一方で、“そら”への共感は中札内村だけに留まりません。

「こちらは出会いというよりも、そらの想いを知っていただき事業継承の話を受けて実現した話です」と米田社長が振り返るのが、昭和2年に福井元八氏が設立した創業95年の歴史を持つ帯広市の老舗ビジネスホテルの事業継承です。

2022年3月1日、株式会社そらは、株式会社ふく井ホテルから事業継承を受け、経営・運営していくことを発表。帯広駅前から徒歩1分の好立地にありながら、駅前で唯一、100%天然モール温泉を源泉かけ流しで堪能できる温泉付きホテルの経営を引き継いだのです。

「ふく井ホテルが汲み上げるモール温泉の良さは折り紙付きでしたから、十勝エアポートスパ そら に運搬することで、相乗効果を得られることになりました」(同)

2年半という短い期間で、次々に支援者=共感者を得たことが、帯広市のシンボルマークでもある「藤丸さん」の話に繋がっていくのです。信頼と実績は、新参者を警戒する地方ならではの保守的な考えを変えます。

「このままでは十勝・帯広の象徴的な場所がなくなってしまう。北海道の土地が外国資本に買われるわけにはいかないし、守るべき土地は自分達で守らないといけません。まして十勝の方が愛する藤丸の火を消してはいけない。今自分達が動かなければ、十勝にとって損失となってしまう」そう決断時の心境を語る米田社長。

米田社長のインタビューを通して、わかったことがあります。

それは、今でこそ矢継ぎ早に打ち出す“そら”の一手はインパクトの強いものばかりです。ただ、多くの事業で「そら」はきっかけに過ぎず、新たな展開には中札内村のように、そら以外の十勝の方々が携わっています。

現在実施中のふるさと納税型のクラウドファンディング「十勝の空の玄関口に“エアポートスパ”建設! ~「なぜ十勝」を「だから十勝」に~」も、前年は“そら”が主体で実施し、約5,000万円の支援を得ました。得たノウハウや可能性に突き動かされたのが中札内村です。

小さな自治体が、地元の良さを最大限に引き出し、外に発信することで、自ら創り出していくという流れは、善例となることでしょう。

最後に米田社長は、「中札内村のふるさと納税型のクラウドファンディングはモデル事業となり、次の挑戦者にバトンタッチされると信じています。共感を得て、事業を実行するというスタイルは大変な労力を要しますが、成し遂げた先には必ず明るい未来があると信じています。次は我々ではない、別の十勝のチャレンジャーが実行してくれるでしょう。その時には全力でそのプロジェクトを応援したいと思っています」と紡いでくれました。


【PROFILE】
Takeshi YONEDA
代表取締役CEO 米田 健史

北海道大学法学部卒業後、2009年に野村證券株式会社に入社。野村證券では、法人営業、人事採用、組合専従(2016年執行委員長就任)に従事する。2020年3月に退職し、2020年4月15日に株式会社そらを設立する。

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