インタビュー企画「そらと考える:地域共創の現在地とこれから」では、株式会社そらが持続可能な地域共創への模索を続ける中で、各業界のフロントランナーの方々をゲストとして招き、十勝の企業や個人の取組みが地域の発展にどのような意味を持ち、どのように貢献しているかを掘り下げていきます。また、十勝がこれから将来にわたり発展し、地域外から人々を惹きつける為には何が必要なのか?という観点で、ゲストたちが考える地域・業界の課題や、それを乗り越えるための革新的な取り組みにも焦点を当てるインタビュー企画です。
第五回目のフロントランナーは、帯広の地に根ざし、93年もの歴史を誇る山田機械工業。その4代目として2021年に代表取締役社長に就任した山田康太さんです。これまでにない方法で地域産業の発展と自社の成長を推し進める同社。中でもYouTubeを活用した情報発信、業界の理解促進、そしてマスコットキャラクター「やままる」を通じた広報活動――それらのすべてが「地域と業界を元気にしたい」という山田氏の強い想いから生まれました。今回は、山田社長の生い立ちや人柄、そして山田機械工業の未来への展望についてお話を伺いました。(取材:株式会社そら 加藤直樹 三浦豪 / 記事・写真:スマヒロ編集部)
PROFILE
山田 康太 | やまだ こうた
1983年、帯広市生まれ。中学卒業後に釧路工業高等専門学校に進学。卒業後は積水化学北海道に入社。岩見沢市に配属。2010年に帯広へUターンとともに山田機械工業に入社。2021年代表取締役社長に就任。趣味は麻雀、アウトドア全般。特に渓流ルアーフィッシングが好き。お付き合いでゴルフも。
【YouTubeチャンネル 山田機械工業】山田機械の社長ってどんなひと??
好奇心旺盛な少年時代。十勝で育ち釧路と岩見沢へ
一問一答は以下の通り
山田社長の生い立ちについて教えてください
1983年生まれ。帯広育ちです。幼少期から自然が好きで、生き物に強い興味を持っていましたね。動物博士なんて呼ばれることもありました。外で遊ぶのが大好きでしたが、同時にインドアな側面もあり、ゲームや漫画も楽しむ、いわば両方の趣味を持つ子どもでした。
ふるさと帯広を進学で出ていますね
中学を卒業した後は、釧路高専に進学しました。帯広を離れるのは初めてでしたが、学びたい気持ちが強かったので、不安よりも期待が大きかったですね。その後、岩見沢にある積水化学北海道に就職し、岩見沢で働く日々を送りました。
帯広への想いは?
十勝・帯広に戻ることには、全く抵抗がなかったんです。帯広は住みやすい土地で、何よりも自然が豊かで人々が温かい。戻ってきた理由は父からの要請でしたが、今では本当に良かったと思っています。
家業を継ぐことについては、どのように考えていましたか?
正直、家業を継ぐことは深く考えていませんでした。父が3代目の社長として経営していましたので、「いつか自分も関わることになるかもしれない」とは思っていましたが、社長になるとは考えていなかったんです。
家業を継ぐことは想定外?
岩見沢でコミュニティも形成されていたし、仕事も楽しくしていました。当時は、就職氷河期だったので、せっかく入れた会社でしたので、当面は邁進するつもりでした。ところが、25歳頃、父から「戻ってきてくれないか」と声をかけられ、家業に戻ることを決意しちゃいました。それは、ちょうど会社が成長期にあり、さらなる人手が必要だったからなんです。やっぱり、父の願いは叶えたいと思いますしね。
同じ建設業界だったので、親和性もあり、すんなり馴染めたんではないですか
いえいえ、そんなことはまったくなく。戻ってきた当初は、業界の知識も乏しく、かなり苦労しました。
御社を例えると建設業界の縁の下のちから持ちですが、一言で伝えるのは難しいですよね
そうなんです。建設業や製造業の資材供給というのは、一見すると地味で目立たない仕事です。しかし、実際には私たちが扱う資材が、地域のインフラや生活基盤を支えている。一言で伝えるのであれば「地域の材料の供給基地」でしょうか。地域に根ざした商社として、地域の産業・インフラを支えることを誇りに思う反面、そう理解するにつれて、この仕事の意義と責任の重さも実感するようになりました。
山田機械工業の挑戦――YouTubeを活用した情報発信
創業93年という老舗企業がYouTubeを始めたきっかけは何ですか?
YouTubeを始めたのは、リクルート活動がきっかけです。建設業界や卸売業の仕事は、若い世代にはなかなか馴染みがなく、その魅力や重要性を伝えるのが難しいと感じていました。そこで、SNSを活用して会社の情報を発信しようと考えたんです。当時、業界全体でYouTubeを活用している企業はほとんどありませんでしたから、「これはチャンスだ」と思いましたね。
動画の撮影や編集の経験はあったのでしょうか
もちろん、ないですよ。最初は会社の紹介動画や業界の基礎知識を解説する動画を中心に作成していきました。しかし、公開してみると意外なことに、学生よりもお客様や社内の人間からの反響が大きかったんです。
反響が大きいとやりがいが強まりますね
特に、電動工具の紹介動画が好評で、「もっとこういう情報を発信してほしい」という声が上がりました。その結果、YouTubeチャンネルは次第に業界全体の情報発信ツールへと成長していったんです。
業界全体への影響について、どのように感じていますか?
正直なところ、当初はここまでの影響を期待していませんでした。しかし、メーカーさんとのコラボレーションを通じて、業界全体に少しずつ波及効果が出てきたと感じています。特に、メーカーの経営層と話す機会が増えたことで、彼らもSNSの有用性を認識するようになり、自社でも取り組みを始めるところが増えました。これは非常に嬉しい誤算でした。
十勝の業界ではまさにパイオニアですね
ありがとうございます。現在では、YouTubeをはじめとするSNSを使った情報発信が、業界のスタンダードになりつつあります。そして、その先駆けとなったのが我々山田機械工業であることに、少なからず誇りを感じています。
『やままる』誕生――広報活動にかける想い
マスコットキャラクター『やままる』が可愛すぎます
マスコットキャラクターを作るというアイデアは、私自身から出したものです。卸売業という業種は、どうしても一般の方々には馴染みが薄く、興味を持ってもらうのが難しい。そこで、少しでも親しみを感じてもらうために、キャラクターを作ることを考えました。3年ほど前に、「やままる」が誕生しましたが、これは社員の奥さんがデザインしてくれたものなんです。
『やままる』の設定を聞いてもよいですか?
『やままる』は山田機械工業の親善大使としての役割を担っています。彼にはストーリーがあり、業界の仕事にチャレンジする若手社員のような存在。このキャラクターを通じて、業界の魅力や私たちの仕事の重要性を伝えていきたいと思っています。
人気はいかがでしょうか
社員や社員の家族から愛されていることは間違いないですね。最近では、LINEスタンプも作成して配布もしているんです。そうすることで学生にも認知が広がってきており、『やままる』を通じて山田機械工業に興味を持ってもらえればと思っています。
山田機械工業の使命は地域と業界を盛り上げるため
すべての広報活動は、業界、つまりは地域を盛り上げるためというわけですね
はい、地域と業界を盛り上げるために、ぶれないのは「発信」が重要との考えです。十勝という地域や私たちの業界の価値を、自分たちがもっと理解し、外部に伝えていく必要があると思うんです。特に若い世代には、十勝の魅力や業界の重要性をしっかりと伝えることで、地域に根付いた働き手を増やしたいと考えています。
具体的などんな内容で発信しているんですか?
例えば、「勝手に観光大使」として十勝の美味しいものや観光スポットを紹介する動画を作成。これはリクルート活動の一環でもあったんですが、十勝の魅力を知ってもらうことで、地域に根付いた採用活動にもつながっていますし、同時に地域の盛り上げにも貢献しています。
今後の展望について教えてください
長期的な視野を持ち、持続可能な成長を目指していくことが重要だと考えています。地方の中小企業にとって、資材の供給だけでなく、経営の効率化や情報発信のサポートが求められる時代です。私たちは、地域全体で成功するための土壌を整え、そのための知識やノウハウを共有することが、今後の大きな目標です。
今後は情報発信のノウハウを伝えることでも貢献できるのではないでしょうか
仰るとおりです。伝えられるくらいにノウハウも蓄積しつつあります。だからこそ、これからは地域の魅力を発信し、地元で働く人たちが誇りを持てる環境を作ることは、私たちの使命でもあります。もちろん、山田機械工業として、地域の活性化とともに、自社の成長を見据えた取り組みも続けていきますよ。
地域と業界の未来を支える――山田康太社長の思い
自社の成長が業界の成長につながるわけですね。最後に、山田社長が考える「十勝の未来」とは何でしょう
十勝は素晴らしい土地であり、豊かな自然や産業が根付いています。私たちが目指すのは、十勝の魅力を最大限に引き出し、次の世代に誇れる形で受け継いでいくことです。地方の小規模事業者にとって、発信力を高めることが今後の課題となっていくことは間違いありません。私たちがそのサポートをすることで、地域全体が元気になり、業界もさらに発展していくと信じています。
本当に最後です。忘れてはいけない『やままる』に込めた想いをお聞かせください。
「やままるくん」には、私たちの会社の親しみやすさと、業界全体への興味を持ってもらいたいという願いが込められています。卸売業というのは、一般の方にはあまり馴染みがなく、興味を持ってもらうのが難しい業界です。しかし、私たちの仕事は地域の生活を支える重要な役割を担っています。その大切さを少しでも感じてもらえるように、「やままる」というキャラクターを通じて、広く発信していきたいと考えています。
『やままる』の使命も重いですね!
そうですよ。『やままる』の活動はまだ始まったばかりですが、これからもさまざまな形で彼のストーリーを展開し、業界の魅力を伝えていきます。最終的には、『やままる』を通じて、山田機械工業の名前を広め、地域と業界の発展に寄与することができれば本望ですよ。
山田機械工業
YOUTUBEチャンネル『山田機械工業の日常』
YOUTUBEチャンネル『ヤマダキカイch』
PROFILE
加藤 直樹 | かとう なおき
群馬県前橋市出身。武蔵大学を卒業後、野村證券入社。最初の配属地、とかち帯広営業所でそら代表の米田健史と出会う。その後、大阪の支店で2年勤務。2024年2月、株式会社そらにジョイン。現在は社長室長として社長をサポートする。
PROFILE
三浦 豪 | みうら ごう
株式会社dandan 代表取締役 | PwCの戦略コンサルティングチームStrategy&、ベンチャーキャピタルの Reapraグループを経て、2021年に株式会社dandanを創業。人や組織は「だんだん」変容するというコンセプトで、企業研修や経営支援、コンサルティングを行っている。2023年に帯広市に移住したことをきっかけに、SORAtoインタビュー企画のディレクターとしても活動している。
今回の主役は、北海道・十勝に移住した三浦豪さん。米国シアトルのワシントン大学を卒業し、世界最大級のプロフェッショナルサービスファーム「プライスウォーターハウスクーパース(PwC)」の戦略コンサルティング...