インタビュー

続・藤丸百貨店 米田社長が語る新藤丸への道標

2023年1月末で閉店した北海道唯一の地元資本の百貨店「藤丸」。あれから5ヶ月……。「帯広のランドマーク『藤丸さん』が忘れさられる前に、早期の再開を目指す」と話す、株式会社そらの米田健史社長をインタビュー。Road to 新藤丸までの道標-を聞きました。

全地権者との不動産集約の合意・契約締結。そして、オープンハウスグループが、10億円の寄付を表明

2023年1月31日、創業1900年の道東唯一の百貨店にして、北海道最後の地元資本の「藤丸百貨店」が午後7時に閉店。122年の歴史に幕を下ろす、閉店セレモニーには、「藤丸さん」の最後の姿を焼き付けようと大勢の人が駆けつけました。

あれから5ヶ月……。

藤丸再生を進める帯広日産自動車の持ち株会社「村松HD(帯広市、村松一樹社長)」とそらが設立した新会社「藤丸株式会社」は、再開へのターニングポイントを迎えました。

既報の通り、藤丸再建のための一丁目一番地とされた土地問題は、全地権者(14法人・個人など)が売買に合意し、6月28日までに全地権者との契約締結が終了。また、大手ハウスメーカーを中核とする「オープンハウスグループ(東京)」が「そらの関わる地域創生事業」に3年間で約10億円を寄付することが伝えられました。これが藤丸再建どうつながっていくのか今後の動向に注目です。

米田社長が「地権者の藤丸再建を支援したいという想いが今回の合意・契約締結に至った大きな要因だと考えています。また、オープンハウスグループには、そらが進めてきた地域創生事業に共感頂き、大きな支援をいただけました」と語る通り、閉店からわずか5ヶ月で、新藤丸への道標が示されたのです。

藤丸再建は12のやるべきことを達成してこそ、初めて道筋が見える

とはいえ、米田社長にとっては2022年4月に閉店発表前の「藤丸」藤本長章社長から支援の打診を受け、その後、再建に名乗りを挙げてからの1年3ヶ月。道のりは一筋縄ではなく示唆に富むことばかりだったそう。

「藤本社長から打診を受けたときの藤丸の内情は待ったなしの状態でした。資金ショートにより、多くの関係者や関係企業、十勝経済にも影響を及ぼし、倒産後は土地や建物が廃墟になる恐れすらありました。待ったなしの藤丸倒産を前に、即断即決を迫られる中で再建には12の課題がありました」と米田社長は振り返ります。

当時の米田社長の想いは以下の記事をご覧ください。

【12のやるべきこと】

① 支援スポンサー候補となり、待ったなしの藤丸を潰さず閉店セールを実施すること
② 閉店セール期間中の資金ショートを防ぐこと
③ 競売になって誰に取得されるか分からない状態を防ぐこと
④ 既存の建物を有効活用すること
⑤ 地権者との交渉とかかる費用を負担すること
⑥ 金融機関との交渉とかかる費用を負担すること
⑦ 屋号「藤丸」を残すこと
⑧ 保証金をテナントに返金すること
⑨ 従業員に退職金を払うこと
⑩ 従業員の雇用問題を解決すること
⑪ 私的整理※の枠組みで解決すること
⑫ 藤丸の再建計画を立てること

結果的に米田社長は支援スポンサーとして名乗りを挙げ、倒産は免れました。そこからの道のりはご承知の通り。2022年12月5日、帯広日産自動車の持ち株会社「村松HD」と株式会社そらによる新会社「藤丸株式会社」の設立を発表(藤丸株式会社の設立は2022年12月28日)。その後は閉店セールを実施し、職員の退職金の原資を確保しつつ、多くの地元民に見守られながら1月31日の閉店セレモニーを迎えることができたのです。

テナントとの保証金返還交渉、閉店セールによる退職金の確保、行政及び商工会議所の協力による従業員の雇用問題の支援といった、「12のやるべきこと」を一つひとつ解決しながらも水面下では地権者の方々との交渉が続きました。

藤丸再建への道標を示す中で、一番核となるのが藤丸百貨店の土地・建物の集約で、それを前提とした私的整理で着地することが絶対条件だったのです。交渉は1年以上かかりましたが、当初から地権者の方々は藤丸支援に前向きでした。過去にも地権者は藤丸の経営が厳しい時代に家賃減免もしていただいている方々です。時間がかかったのは、今回とった手法が、不動産の信託受益権化及び信託受益権売買という信託会社が間に入るスキームでしたので、ご納得していただく書類や説明の時間に費やしたからです。最後まで応援してくださった地権者の皆様には感謝しかありません。新藤丸にとっても信託受益権売買の形でできたことで、不動産取得税が繰り延べとなり、当初の再建コストの圧縮に繋がり、再建スピードを速めることができます」(米田社長)

【不動産信託受益権】

委託者が不動産を信託銀行等(受託者)に信託し、受益者がその資産から発生する経済的利益の配当を受け取る権利のことをいいます。

「そら」の地域共創に共感。オープンハウスグループが10億寄付

地権者の方々との合意を得たことで、金融機関との交渉次第ですが、いよいよ具体的な藤丸再建計画へと着手する新会社「藤丸」。とはいえ、再建への道のりはまだまだ険しいのが現実。藤丸の現施設の建て替えや、仮に一部活用するとしても、耐震化工事、大規模リニューアルなど莫大な資金が必要であることは誰の目にも明らかでしょう。

そんな中、大きなニュースがありました。

日本トップクラスの戸建てハウスメーカーを中核とする総合不動産デベロッパー「オープンハウスグループ(東京・荒井正昭社長)」が、「そらの関わる地域創生事業」に3年間で約10億円を寄付することが決まります。理由は「十勝の地域創生に取り組む株式会社そらに共感したから」だそう。ちなみに、オープンハウスと言えば、プロ野球チーム「東京ヤクルトスワローズ」の村上宗隆選手が日本人最多本塁打を達成した際に、3億円の家を贈呈したことで話題になった会社。

新会社は7月下旬に設立予定。社名は“株式会社かぜ”。地域共創を軸に地域に新しい風を巻き起こしたいという想いが込められています。拠点はオープンハウスグループも入居する東京・銀座エリア最大の商業施設「GINZA SIX」とし、代表取締役に米田氏、オープンハウス側からも取締役が入る予定で、新会社のミッションは、十勝と群馬の「地域共創」です。

オープンハウスグループは、荒井社長のふるさと群馬県で、日本の抱える社会課題「人口減少・少子高齢化」、「都市への人口集中・地方の衰退」、「社会資本の老朽化」、「長期的な経済の低迷」、「低い労働生産性」などに対し、「地域共創」をその解決策の一つとして取り組んできました。具体的には、太田市に日本最高峰の可動式センタービジョン・サウンドシステム・ライティングを兼ね備えた、臨場感あふれる空間のアリーナ(OPEN HOUSE ARENA OTA)の建築を支援し、水上温泉の再生などいくつもの「地域共創」プロジェクトを手掛けています。

オープンハウスグループ地域共創プロジェクト

これだけ聞けば、オープンハウスグループの荒井社長と米田社長は「ただならぬ関係」と予想する人も多いでしょうが、意外にも出会いは少し前だったそう。

初めてお会いしたのは2022年5月。その後、食事をご一緒させていただいた際に、十勝で我々が力を注いでいるGTP(十勝の地域内総生産)を高めるための地域創生への取り組みをお伝えしていました。昨年末にそらが実施し、1億円を超える支援が集まった中札内村ふるさと納税型クラウドファンディング(CF)の際に、荒井社長から『個人的に応援したい』と2,000万円を寄付して頂きました。その後、そらの地域創生の取り組みを群馬でも活かしたいという話をいただき、今回の話に繋がっていきました」(米田社長)

不安を期待と希望に変貌させるため、新藤丸を早期に着工させたい

果たして、誰しもが驚いたオープンハウスグループの登場は藤丸再建への救世主となるのか?

米田社長はこう語ります。

10億円という寄付を表明してくださったオープンハウスグループ及び荒井社長には感謝の気持ちでいっぱいです。このご支援は、そらが十勝で展開する地域創生事業に共感いただき実現したもので、藤丸再建だけに向けられたものではありませんが、今後藤丸再建に向けた支援の輪がどんどんと広がり多くの人が参画するプロジェクトになっていくことを期待しています。地権者の合意、金融機関の協力、支援者の登場で、多くの人たちが『藤丸の再建は地域共創、地域創生に繋がる』と感じてくれるはずですし、新たな協力・支援者への呼び水にもなるんです。最初に支援に手を挙げたのは我々ですが、帯広・十勝のランドマークである藤丸の再建は、地域共創の輪で進めていくものだと思っています。だからこそ、藤丸再建は株式会社そらや自分自身の利益などとは切り離した理論で、藤丸を主語に、どうしたら一番うまくいく可能性が高いか、でこれからも全て判断していきたいと考えています

転換期を迎えた藤丸再建。最後に米田社長は、再建スケジュールにも言及してくれました。

再開発は10年弱かかるケースが多いのですが、帯広は長崎屋の閉店も重なり『帯広どうなっちゃうの?』と不安が高まっています。だからこそ、どんなに困難な課題があっても、藤丸再建はスピーディーに進める必要があると考えています。これまで、そのために奔走してきました。それが伏線となり、こうして少しずつですが進みはじめています。皆さんの脳裏に残る「藤丸閉店セレモニー」や「藤丸の思い出」が薄まる前に、そして、何より藤丸を支えてきた、地域の方々のためにも、商業施設として「藤丸」の屋号で再建させたいと思っています。早期の再開に向けて動き出し、その姿を発信していくことで、不安が希望と期待に変わると信じています」(米田社長)

皆さんが待ち望んでいる新生「藤丸」に向けた動きが加速されるようです。開店セレモニーが待ち遠しいですね。

取材・文/北川宏(SUMAHIRO.COM編集長)

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