「重要なのは入口ではなく、『現在地』で自分が輝ける場所を見つけられるかどうか。キャリアも働き方も、一本道だけが正解じゃないですよね」。こう語るのは、そらが運営するグランピングリゾート「フェーリエンドルフ」の舵をとる志鎌周ゼネラルマネージャー(GM)。ほどよく周りに流されながらも、柔らかく思考を変換してビジョンを広げていく。観光業を通じて地方創生に貢献する若きエースのビジネスマインド、そして田舎暮らしを楽しむヒントとは?
志鎌 周 | しかま しゅう
2020年入社・ゼネラルマネージャー
札幌市出身。小樽商科大学を卒業後、東京の広告代理店に勤務。営業として4年ほど勤務したのち、結婚を機に帯広市へ移住。市内の競馬場「ばんえい十勝」にてメディア対応などの広報業務に従事する。2020年にそらへ転職。「フェーリエンドルフ」のフロントマネージャーなどを経て、現在はゼネラルマネージャーとして施設の運営全般を担う。
転職してからもう3度目の春。未来予想図にはなかった刺激的な毎日
とかち帯広空港から車で15分。志鎌GMが軸足を置くグランピングリゾート「フェーリエンドルフ」があるのは、パッチワークのように区切られた田園風景が広がる十勝・中札内村です。東京ドームおよそ25個分もの敷地を擁し、ドイツの民家風の瀟洒な一棟貸コテージやテントが点在。クワハウス(=温泉保養地)をモデルにした農村休暇村が広がっています。いったいどんな施設なのか、志鎌GMに紹介していただきましょう。
「中札内村と聞いても、あまりピンとこない方が多いかもしれませんね。正直、札幌出身の私も移住するまではあまり馴染みのない地域でしたから(笑)。フェーリエンドルフは日高山脈の麓、自然豊かな中札内村の森の中にあります。北海道内でもいわゆる「通過型観光」が多いといわれる十勝エリアですが、じつは集客を期待できる魅力的な観光資源が眠っているんです。そこで、『十勝に人とお金を呼び込む』を理念に掲げ、地方創生の一翼を担う弊社が運営元のキャピタル・ゼンリン(帯広市)と経営統合。創設者の想いを受け継ぐ形でリブランディングを図り再スタートを切りました。とりわけ、ふるさと納税型のクラウドファンディングを活用して新築した温浴施設『十勝エアポートスパそら』は、2022年7月の開業から約1カ月で利用者数が1万人を突破。コロナ禍に沈む地元経済の明るいニュースとなりました」(志鎌さん)
フェーリエンドルフ内には「十勝エアポートスパそら」をはじめ、「十勝魔法のマヨネーゼ」が好評の「十勝冷燻工房」、ドイツの片田舎をイメージしたカフェ「ディンケルス」など、新施設が続々オープン。これらリゾート事業の全体を取り仕切るのが志鎌GMの役割です。
「経営企画室の室長からゼネラルマネージャーになって浅いので、もちろんまだ手探りな部分はあります。経営陣の方針と現場の声を折衝しながら、フェーリエンドルフのブランド力を高めるべく日々奔走といったところでしょうか。ただ、ベンチャー企業のなかでも弊社は大きな裁量で仕事を任せてもらえるほうだと思うんです。だから、自分に務まる・務まらないといった自信はさておき、まずはアクションを起こして糸口を探るように心がけています」
結果オーライとなった異業種転職。変化を恐れないマインドセットが突破口に
経歴を拝見すると、フェーリエンドルフを運営する「そら」は志鎌さんにとって十勝に移住後2つ目の会社。転職先にグランピングリゾートを選ぶなんて、さぞやアウトドア好きなのかと思いきや?
「いえいえ、今の仕事に就くまでグランピングの“グ”の字も知りませんでした。まさか自分がリゾート施設を仕切ることになるなんて(笑)。じつは、前職と同じ広報職を希望して入社し、当初はグループ会社でECサイトの運営・PRなどを任されていました。
ところが、良くも悪くも“ベンチャーあるある”とでも言うんでしょうか。突然、リゾート部署に回って現場を手伝ってほしいと言われまして……。敷地内の木の伐採やフロントでの接客など未経験の現場仕事に就くことになり、気づけばフロントマネージャー、経営戦略、ゼネラルマネージャーと昇格していました。入社後もう5回は肩書きが変わっていると思います(笑)」(志鎌さん)
前職では道内の有名競馬場で広報職に従事していたという志鎌さんにとって、リゾート施設の顔であり、接客もこなすフロント業務は完全な専門外。しかも、未経験となる「B to C」部署への移動に戸惑いはなかったのでしょうか。
「たしかに当初は驚きましたが、他部署への移動はすんなりと受け入れられました。もともと新しいことに挑戦したり、変化していくことを良しとする性分なので、『なんか面白そうだ』と思ったことにはわりとすぐに飛びついちゃうんです(笑)。もちろん過去の経験も大事ですが、『そら』での仕事では好奇心のほうが大きかった。それに業務内容は違いますが、どんな仕事でも根本のマインドは変わらないと思っているのでまったくの畑違いだとは感じませんでした」
また、リゾート部署での就業で感じた「仕事のやりがい」について尋ねてみるとこんな答えが。
「お客様の反応をダイレクトに感じられることですね。広報職というのはどちらかというと裏方業なので売り上げなどの数字が手応えになりますが、今はお客様との些細な会話や表情からも満足度や改善点といった“気づき”を得ることができます。また、笑顔で帰られる様子をみるとモチベーションが上がりますね」
27歳で帯広へJターン移住&転職。どんなに困難でも、最後に愛は十勝♪
持ち前の好奇心を発揮して、「フェーリエンドルフ」の要として大活躍。プライベートでは移住生活4年目を迎えた志鎌さんですが、そもそも、なぜ十勝への移住を決意したのでしょうか?
「ズバリ、彼女と結婚したかったからです!小樽での学生時代から交際し、卒業後に上京してデジタル広告分野のメガベンチャー企業に就職。帯広出身の彼女とはお互いに行き来する遠距離恋愛を続けていました。当時の会社にはいわゆる『逆求人型』の就活で新卒入社したうえ、社会人としてのイロハを教えてもらったので退職に迷いがなくもなかったですが……。やはり最終的には彼女の地元・十勝愛と、彼女への愛が勝りました」(志鎌さん)
どこでも同じ北海道と思うなかれ。住んでわかった“十勝のポテンシャル”
メガネの奥に情熱をにじませ、すっかり“十勝人”の顔つきの志鎌さん。しかし、結婚後の生活拠点を決めるに際しては、当初、違う選択肢も頭に浮かべていたのだとか。
「私は札幌近郊の出身なので、同じ北海道内・十勝への移住に抵抗はありませんでした。ただ、彼女に東京に来てもらう、もしくは完全な新天地を選ぶことも視野に入れていました。移住って人生観を広げられる好機である反面、結婚するうえでは、家族、子育てなどその先の将来も含めて吟味する必要があると思うので。最初から限定的には考えていませんでした。結果として、私は十勝を選んで大正解だったわけですが」(志鎌さん)
続けて、「地元・十勝のPRポイントをひとつだけ挙げるなら?」と質問してみると。
「移住者にとって北海道の冬の寒さや雪は宿敵ですよね。札幌育ちですが私も寒さは苦手で、冬が来るたびにネガティブな気持ちになることも……。ただ、『十勝晴れ』という言葉があるとおり、冬型の気圧配置のおかげで十勝では真冬でも晴天の日が続くんです。どんなに寒くても青空と太陽があれば、気分もカラッと晴れてパワーをもらえる。十勝なら冬も悪くないです!」
“田舎のベンチャー”だからこそ掴める、チャンス・チャレンジ・チェンジ
最後に、これから新天地への移住・転職を考えている読者の皆さんへのヒントを伺いました。
「よく、地方のベンチャー企業への転職は後悔が多いなんて聞きますが、私の場合はやりがいが勝っています。当然ながら楽しいことばかりではないんですよ。できたばかりの組織や事業は目まぐるしいスピードで変化していくので、それを手放しで喜んでばかりもいられません。
ただ、『この会社でなければ、一生経験できなかっただろうな』と思える業務に携われるなど、良くも悪くもひっくるめて自分次第なんです。たとえば、クラウンドファンディングで1億円を集めたり、それで温浴施設を建てたり(注:十勝エアポートスパそらのこと)なんて、手前味噌ですが最っ高に突き抜けているなと。それをやってのけるベンチャー企業の創業期に立ち会えただけでも、価値ある転職だったと思っています」(志鎌さん)
ちなみに現在、志鎌さんが働く「フェーリエンドルフ」では正社員・パートを募集中とのこと。気になる方はTCRU(ティクル)をチェック!