インタビュー

画家・坂本直行が愛した風景のある中札内村の森田村長をインタビュー

SORAtoでは、地方創生ベンチャー「そら」と十勝のために働く・動く・考える人たちを紹介していきます。今回は、2022年“そら”と一緒に「ふるさと納税型クラウドファンディング(CF)」で目標額1億円の寄付を達成した、中札内村の森田匡彦村長をインタビュー。「コンビニ村長」と言われた森田村長とは一体、どんな人物なのでしょう。

森田 匡彦 | もりた まさひこ
1966年生まれ。中札内村出身。帯広柏葉高卒。室蘭工業大学卒業後、十勝毎日新聞社へ入社。記者職を中心にキャリアを積む。2013年、元村長からの打診を受けて村長選に出馬も落選。その後、コンビニ店員と村議会議員の二足のわらじを経て、2017年二度目の出馬で当選。現在2期目。

出馬打診を受け記者を退職、妻は二つ返事でOKも落選

――コンビニ村長と呼ばれていますが?

中札内村出身で、帯広柏葉高校卒業後に室蘭工業大学へ入学。電気工学を学ぶも、その業界への適正を感じられず、卒業後は古里に戻って十勝毎日新聞社へ入社。町村担当記者、社長室でのグループ広報、フリーマガジン編集者など40代半ばまで普通の会社員生活を送っていましたが、村民有志からの「村長選挙に出ないか」の一言で突如、人生の分岐点に立ちました。あがり症で、人前で話すことは大の苦手なのに、なぜか二つ返事で了承してしまい、妻もこの決断を受け止めてくれました。結果は、ご存知の通り、243票差での落選。無職となった際に就いた仕事がコンビニエンスストアの店員でした。

――選挙の打診を受けると落選後の面倒をみてくれると言われますが

そんな都合のよい話はありませんでした(笑)。まさに背水の陣で挑んだ選挙でした。落選後にハローワークに足を運んでいたところ、縁あって店長候補のポストに空きが出た地元のコンビニで働けるようになりました。もともと不器用な上、不慣れな仕事なので、失敗ばかり。オーナーや同僚には、かなり迷惑をかけたと思います

――コンビニで働きながら村議会議員を経験し、2度目の村長選で当選しましたね

再度、政治に関わる気持ちはありませんでしたが、落選から2年が経過し、お客さんなどから中札内村村議会議員議選への挑戦を勧められるようになりました。村長選挙での支援者からも応援をいただき、何とか当選することができました。議員報酬だけでは生活していけませんので、コンビニの仕事も続けました。夜勤明けで議会に臨むこともあるなど、業務の隙間時間や休日を使って議員活動を行うのは苦労もありましたが、コンビニ店員のようなエッセンシャルワーカーの方々の奮闘で暮らしの安心が維持できている現状を実体験できましたし、接客を通して村民と日々交流し、時に村の課題を直接伺うことが出来たので、村議として働く上で貴重な経験になりました

そうして村政に携わる中で、メディア等で積み重ねた自分の経験が古里の未来のために役立つことができるとの思いを強くし、2017年の村長選への再挑戦を決め、村のかじ取りを任せていただけることになりました。あれから6年。現在は2期目の半ばを迎えています。

下積みを経た村長の底力が花開く

――村長になって、いの一番に取り組んだのは?

情報発信力の強化です。地方創生とは、つまるところ「我がマチの存在を知ってもらう」ことにあります。どんなに素晴らしい資源を持っていても、知られていない限りゼロのままです。行政の情報発信は、得てしてホームページや村の広報誌に載せる、チラシを配るという“作業”が目的化しがちですが、大切なのは、地域住民はもちろんのこと、中札内村の潜在的なファンに情報を届け、関心を持ってもらうことです。

そのためには、利用できるツールは全て使わなければなりませんし、繰り返し発信することもあるでしょうし、その時々で表現を変える必要もあります。ただ、それまでの習慣から脱して人の行動を変容させることは容易ではありませんし、実践の伴わない者の言葉は力を帯びません。私自身が率先してSNSを含めた情報発信に努め、プレスリリースの書き方などメディア連携のノウハウなどを伝えながら、成果を示していきました。

ふるさと納税額が急伸し、村内の出来事がたびたび報道で大きく取り上げられるようになって、組織内で情報発信の重要性の理解が広がりました。2期目初年度に入ったところで機は熟したと判断し、村の公式SNSを立ち上げ、その運営を職員に担ってもらうことにしました。広報担当者の仕事ということでなく、全部署で関わっているのが中札内村の特徴です

成果の一例として、除雪に関する発信があります。

担当者の懸命の努力にかかわらず、除雪や排雪については住民の不満が溜まりがちで、お叱りの電話対応などで心が疲弊する職員が少なくありませんでした。情報発信を強化し始めてから、いつから除雪に入るのか、排雪はいつから始めるのかといった事前情報を共有するようにしたところ、除排雪作業に関する理解が住民の皆さんの中に広がり、お叱りの件数も減りました。以前のこの部局はどちらかというと情報発信は少なかったのですが、今では最もSNSを使いこなして成果を上げる組織の一つになっています。

住民との協働で最も重視せねばならないのが情報共有であり、そこがしっかり機能すると様々な課題の解決につながります。人口減少社会において今後、村外の関係人口をいかに創出するかも不可欠な視点です。真に成果の出る情報発信を中札内村役場の普遍的な文化として定着させるのが、自分に課せられた使命と受け止めています。

――ふるさと納税型クラウドファンディング(CF)での1億円の達成もすごかったですね

今回の掲載媒体SORAtoの運営元でもある地方創生ベンチャー「そら」による、ふるさと納税型クラウドファンディング(CF)ですね。目標寄付額の1億円の達成は極めてすごいことだと思います。CFにより、中札内村初の温泉施設「十勝エアポートスパそら」が開業し、新たな観光資源として人気が高まっていることは村としても喜ばしい限りです。

――地方創生ベンチャー「そら」との関係は

「十勝エアポートスパそら」を有する滞在型観光施設「グランピングリゾートフェーリエンドルフ」(旧名:中札内農村休暇村フェーリエンドルフ)の経営を彼らが担うようになり、施設の大幅リニューアルに着手したことが最初です。新型コロナが流行り始めた2020年のことで、観光業が大きな痛手をこうむっている時期でした。未来の可能性を見据え、そのような環境下でも戦略的かつ大胆にビジネスを仕掛けていく姿勢には驚きとともに感動を覚えます。まさに「ピンチはチャンス」を体現している会社ですね。

ベンチャー企業ならではのスピード感と情報発信力には脱帽です。そして、人の中に飛び込んでいって泥臭く地道なファンづくりに注力していることも見逃せません。現場を重視せねばならないのはマチづくりも同じで、彼らの取り組みは非常に参考になります。

CFを通して全国各地から多くの支援を得てスタートした「十勝エアポートスパそら」ですが、村民や周辺市町村の方々の利用も多く、単なる観光資源にとどまらず、地域の暮らしに根差す施設として成長を続けています。今後も「そら」とは、住民福祉の向上につながるような連携を図っていけたらと考えています。

中札内村は選ばれる自治体になっています

――改めて中札内村の魅力を教えてください

NPO「日本で最も美しい村」連合に加盟する中札内村は、北海道らしい雄大な景観を有しており、枝豆や玉子、鶏肉などの良質な農畜産物を生産する豊かな農村です。「花と緑とアートの村」としても知られ、歴史的に住民主体の花づくりが進められているほか、全国絵画公募展を20年にわたり開催し、十勝・北海道を代表する菓子メーカー「六花亭」が運営する『六花亭アートヴィレッジ 中札内美術村』『六花の森』があるなど文化振興にも力を入れています

また、日帰りドライブ先として人気の道の駅や花畑牧場のほか、国立公園化が予定される日高山脈内にある札内川園地での本格的なキャンプ体験、さらには日高山脈を遠くに眺めながら優雅にアウトドアレジャーを楽しめるグランピングリゾートフェーリエンドルフもあり、多様な観光メニューがそろっているのが特徴です。村内を流れる日本一の清流「札内川」は、ファンの間では有名な釣りスポットでもあります。

――広大な畑と日高山脈は十勝の代名詞ですね

中でも、中札内村から望む景色は別格なんです。そう言い切れるようになったのは、あるエピソードを聞いたからです。十勝の原野を開墾しながら絵を描き続けた画家・坂本直行(1906~1982)をご存知でしょう。六花亭の包装紙のデザインでも有名ですね。登山家でもあった坂本画伯は多くの日高山脈の絵を残していますが、最も愛した景色の一つが中札内村からの眺望でした。

国鉄広尾線が廃線になる前、坂本画伯は中札内駅のトイレのそばによく訪れていたそうです。不審に思った駅員が何をしているのかたずねると、坂本画伯は絵を描いていることを明らかにし「ここから見る日高山脈が見事なんだ」と語ったそうです。十勝幌尻岳(通称ポロシリ岳)が象徴的に中央にそびえ、山との距離感が絶妙なバランスを保つ中札内村から見る日高山脈の美しさは村民の自慢ですが、坂本画伯からもお墨付きをもらっていたのです

2023年は子育て世代に優しい中札内村を目指します

――今後、中札内村が目指す方向性は?

ポテンシャルが豊かな中札内村ですが、2023年度は「少子化ストップ元年」と位置付け、村を挙げて様々な施策を展開します。これまでも、保育料無料化や中学校3年生までの医療費無料化、出産祝い金、住宅の新築・購入費助成などの移住定住支援、高校生の就学支援(月額1万円)など、子育て世帯が暮らしやすい村づくりを進めてきましたが、大幅に拡充します。

今年度取り組む支援策の一例を挙げると、村外の認可外保育所の利用者にも無料化を広げ、高校生まで医療費を無料化し、高校進学祝い金(5万円)を新設し、15歳までの子どもを対象に村内の飲食店から誕生日グルメをプレゼントする企画も始めます。目指しているのは、幸せと安心感を抱きながら子育てをできる環境づくりであり、中札内村で育った子どもたちに古里を誇りに感じてもらうことです。これからも普遍的な価値を大切にしながら、優しく穏やかな美しい村づくりに全力を尽くします。

中札内村

関連記事

TOP