ワーケーションを導入した都内の資産運用企業が、1年後には北海道十勝の中札内村に支社を開設。地方創生を推進するために「できること」として、資産運用セミナーを開催しました。果たして田舎での資産運用需要はあるのでしょうか。また、地方創生に同社は、どう役立つのでしょう。
人口4000人の北海道中札内村で、東京の資産運用コンサルティング会社がセミナー開催
東京に本社を置く、資産運用コンサルティング会社「Innovation IFA Consulting」(馬場勝寛社長)は10月18日、北海道十勝・中札内村にあるグランピングリゾート「フェーリエンドルフ」で、資産運用セミナーを開催しました。「東京のコンサルが、なぜ中札内村で資産運用セミナーを?」「需要なんてあるの?」と疑問を抱く人も多いでしょう。ところが、予想とは裏腹に村民や近隣の帯広市からも参加者は集まり、定員の30名はほぼ満席に。
Innovation IFA Consultingの馬場社長は、冒頭、日本とアメリカの家計金融資産を引き合いに日本では預金が約50%を占めるのに対し、アメリカでは約13%と低いことを指摘。結果的に、過去20年間で「アメリカの個人資産は約3倍に増え、逆に日本では同じ期間で1.4倍に留まっている」と現状を解説しました。
その上で、ロボアドバイザーやアクティブファンド、個別株アクティブ運用など、最近の投資運用方法を紹介。
セミナーに参加した中札内村に住む50代の女性は「投資や資産運用と聞くと難しいイメージがありましたが、肩の力を抜いて自分にあった方法をみつけたい」と前向きな様子でした。また、帯広市から駆けつけた20代の男性も「資産運用について興味があり、将来のために知りたかった。まさか十勝でこれほど濃い話を聞けるとは思わなかった」と話していました。
一方、Innovation IFA Consultingの馬場社長は「十勝は、基幹産業である農業でうるおっている数少ない地域です。安定的な経済基盤のある地域では必ずニーズがあると思っていました」と手応えを語ります。
ちなみに、IFAとはIndependent Financial Advisorの略称で、日本語では「独立系ファイナンシャルアドバイザー」と呼びます。従来日本のファイナンシャルアドバイザーと言えば、どこかの金融機関に所属し、所属金融機関の商品をお客様に提案する人を指しました。しかし、IFAは独立系なので、特定の金融機関に所属致しません。その為、特定の会社の営業方針やノルマに縛られる事がないため、様々な金融機関や保険会社、各種提携先と業務提携を結び、中立な立場で仲介する形態が信頼を呼び、話題となっています。
今までの固定観念が吹き飛ぶ、中札内村のワーケーションの威力
セミナーは盛況のうちに終わりました。とはいえ、なぜ、東京の資産運用コンサルティング会社が人口約4000人の中札内村で資産運用セミナーを開いたのでしょう。
その理由は1年前に遡ります。
ご存知の通り、新型コロナにより、リゾート地などでリモートワークをしながら余暇を楽しむ「ワーケーション」需要が高まりました。御多分に洩れず中札内村では、いち早く需要増を狙い、宿泊費(最大1日7500円)やレンタカー費用(同2500円)を助成する「ワーケーション普及促進事業」を開始。3年間の実証実験を開始します。
そんな実証事業に手を挙げたがInnovation IFA Consultingでした。
同社では、すでにテレワークが浸透し、出社率も2割弱に進んでいることから、ワーケーションへのハードルは低かったようです。
参加した同社のスタッフらは「大自然に囲まれたコテージで仕事も進みますし、新たなアイデアが浮かぶほど心に余裕ができました」や「本社の渋谷は便利ですが、人も多く、知らないうちにストレスがたまっていました。同じパソコンに向かっていても、ふと窓を覗けば、森の中をリスが走っていくのが見えます。これを見て心が和まない人がいるのでしょうか」と大満足だったとのこと。
なにより、空港が近く、フェーリエンドルフととかち帯広空港は車で15分。羽田空港からのフライト時間は約90分なので、渋谷から中札内村までは約2時間です。仮に、北海道の札幌市からも高速道路(一部高規格道路)を降りずに約3時間。中札内ICからは5分と、札幌・千歳方面からのアクセスにも優れています。
ワーケーションから約半年が経った2022年5月、Innovation IFA Consultingはフェーリエンドルフ内のコテージを借り、サテライトオフィスを開設しました。
地方創生の推進剤?資産運用が田舎に及ぼすインパクト
空港から近い中札内村は、東京都との距離を縮め、家賃コストも抑えられる以上に、働く人の心のストレス軽減と幸福感の創出も期待できるなどメリットが多い。しかし、企業にとっては働く環境も大事だが、企業は経済活動の担い手であることを忘れてはいけません。
Innovation IFA Consultingが支社を開設したもう一つの理由がそこにありました。
コテージが建つフェーリエンドルフは、地方創生ベンチャーである株式会社そらが運営しているグランピングリゾートです。そらは、2020年4月に元金融マンの3人で起ち上げた会社。
日本全国で、地方創生・地域創生が叫ばれる中、“十勝に人とお金を呼び込む”ことをコンセプトに、十勝で様々な事業を企画し自ら実行・運営していく会社として生まれました。
そらは、事業に関わる経営判断をする上で、“その事業を通じて十勝の地域内総生産(国で表すとGDPの概念)にどれだけ貢献できるのか”を最も重視。つまりは、そらが取り組む様々な事業創出や事業拡大の施策を通して、雇用を創出し、移住者や観光客の増加を促していくことこそが地域内総生産を伸ばす最短ルートだと考えるからです。
事業が生まれれば、その事業に“ひと”が集まり、消費を通してお金を落とします。落とされたお金は新たな事業に使われ、事業が生まれれば……。と好循環を創り出し、十勝の各種納税額も必然的に増加します。
確かに、フェーリエンドルフには素晴らしい環境が揃います。それでも、本当に資産運用会社であるInnovation IFA Consultingが支社を開設する理由となったのでしょうか。
同社が支社開設を決断した理由はもう一つありました。それが、「地方創生」の一躍を担う、企業の社会的責任という側面でした。
皆さん、「老後資金2000万円問題」をご存知でしょうか。金融庁が2019年に公表した報告書では、老後資金が年金だけでは2000万円足りないという内容が報道され、社会に危機意識を高まるきっかけとなりました。
その後は、新型コロナや世界情勢の不安などから物価上昇が続き、老後の資金不足を不安視する人も多いでしょう。
そんな中、政府は「資産所得倍増プラン」を掲げ、少額投資非課税制度(NISA)を拡充するなど金融教育の普及を進めています。
つまり、現代(いま)だからこそInnovation IFA Consultingのような資産運用のプロフェッショナルの知見が地方創生に役立つというわけです。
馬場社長がセミナーの際に「ニーズを感じた」と話すとおり、「資産運用」は国が目指す地方創生という目標を達成するための大切な手段のひとつであり、同社にとって十勝の地方創生を推進するために「できること」が、資産運用セミナーだったというわけです。
そして、Innovation IFA Consultingの十勝進出は、地方創生ベンチャー「そら」が掲げる“十勝に人とお金を呼び込む”を体現したひとつの事例となりました。
田舎にはなかった本格的な資産運用の知見が、十勝をどう導くのか注目していきたいですね。
現在、中札内村では地域観光の起爆剤となる、これまで「欲しかった」けど「なかった」施設「十勝エアポートスパ そら」のふるさと納税クラウドファディングを立ち上げ、支援者を募っています。是非一度、プロジェクトをご覧ください。